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【2018入賞者インタビュー(4)】橘ジュンさん~会って話を聴かないと相手の物語が始まらない。頭でっかちにならず、実際に会った子からいろいろ教わって形にしていけたらいい~

2018年度「チャンピオン・オブ・チェンジ」日本大賞 入賞者インタビュー④

 

橘ジュン (たちばなじゅん)さん

特定非営利活動法人BONDプロジェクト代表

たくさんの若い女性たちが虐待やいじめ、性被害、貧困といった困難を一人で抱え込み、誰にも相談できずにいます。2009年の団体設立以降、メールや電話などでの相談はもちろん、街に出かけて彼女たちの言葉に耳を傾け、必要に応じて専門機関や行政の支援につなぐ一方で、実態を広く社会に知らせる役割も担ってきました。「動く相談窓口」として現場主義を貫きつつ、他機関とも連携し、彼女たちの自立までを視野に入れた取り組みを進めています。

 

Q. どういう社会課題の解決に向けて活動に取り組んでいらっしゃるのでしょう?

 

若年世代の自殺率が高くて、私たちも毎日、「死にたい」「消えてしまいたい」という女の子たちの声を聞いているんですが、身近な人に相談できない、本当の自分を出せないという子が多いんですよね。身近な人だからこそ迷惑をかけたくないという思いがあり、一人で抱えこんで自暴自棄になってしまう。考え方が極端に狭くなって本人たちは「生きるか死ぬか」と切羽詰まっている状況です。

ですが、一度立ち止まっていろいろ話すことで、自分の気持ちに整理がついたり、生きる方法や選択肢が見つかることもある。あくまで本人の力なのですが、何かに気付くきっかけとなったり、一緒に考えようとする大人が必要だと思っています。

虐待で家に帰れないといった相談が毎日来ますが、それは彼女たちが大人になっていくまでのわずかな時間のことです。居場所づくりに取り組んでいるのは、今必要な居場所を作ってあげたいから。彼女たちは自分の気持ちを言語化するということがとても苦手な世代なので、こちらから根気強く「聴かせて」と歩み寄って、彼女たちの未来を支える存在になれたらいいかなと思っています。

 

Q. とくに10代、20代の女性たちを支援なさっているのはなぜですか?

 

男の子は自分の気持ちを話すのがもっと苦手なので、男の子には男の子なりの支援が必要なんですが、もともと私たちが活動を始めたきっかけは、家に帰れず街にいる女の子たちでした。わずかなお金しかなく、やりたくもない援助交際をしている女の子たちは、本当に物のように扱われています。妊娠しているのに病院に行けないといった深刻な問題を抱えていても相談できないまま放っておかれている。さみしさを埋めるために居場所を求めているだけなのに、それが妊娠や出産に直結してしまうんです。女の子はとくに「見て見ぬふり」はしないほうがいいと思っています。一緒に考える、きちんとした情報を提供する、本人が行動できなければ背中を押す役割の誰かが絶対に必要です。「放っておかない」という気持ちで関わるほうがいい。

 

Q. 今、特に力を入れている活動は?

 

やはり「声を聴く」ことが大事だし、相談できない子たちを待っているだけでなく、こちらから動いて見つけようと思っています。「動く相談窓口」となって、相談しに出てこられない子どもたちに気づけるようにしたい。週2回は街に出てパトロールしていますが、週5日18:30から22:30まで4時間、ネットのパトロールも行っています。

ネット世代の子たちは追い詰められた思いをネット上にさらけ出してしまい、そこから危ない大人たちに繋がってしまうんです。まず同世代の子たちにネットを検索してもらい、困っていそうな子、BONDに相談したらいいんじゃないかと思われる子を見つけたら、こちらからアクセスします。本人がその気になってくれたら相談を受けますが、それはあくまで入口で、そこから話を聴いたり、直接会ったり、同行支援したり、保護したりという従来の活動に繋げられるよう信頼関係を作ります。

いつか渋谷に「夜間の保健室」みたいな感じで、居場所がなくて困っている子たちが相談ではなく気軽な感じで一時的に立ち寄れる場所を開きたい。それから全国からの相談が増えているので、東京でやっているような活動ができる場所をまず大阪と仙台に作り、西日本と北日本の相談を受けたいと考えています。

ですが、BONDも彼女たちがずっと居続けることのできる場所を持っているわけではないので、状態が良くなり、できることが増えたのなら、一歩踏み出してもらわなければなりません。必要なのは就労の場です。今困っていて今お金は必要ですが、彼女たちは別に何もできない可哀想な子ではありません。力を引き出す理解者や応援者がいて、働ける場が見つかりさえすれば、すぐに自分でやっていけるようになるので、自立支援にも力を入れていきたいです。

 

渋谷街頭で少女達に話を聞く

 

Q. これまでの活動の成果であると思えることはありますか?

 

活動を始めてもうすぐ10年になるんですが、ようやく国が、若年女性は特有の問題を抱えていて、それに特化した対応や支援が必要だと認識して、今年の10月から困難な問題を抱えている若年女性の居場所づくりのモデル事業をスタートさせることになりました。まず東京で始まるんですが、私たちが必要だと思ってやってきたことがそのままモデル事業の内容になっていて、これは成果と考えていいんじゃないかと思います。

活動を始めた頃は、何でそんな子たちを支援するのかと言われたし、そういう子たちの存在さえ知らない人がほとんどでした。彼女たちは人間不信、大人不信になっていて、困っていることを素直に相談することができない。だからその声を私たちが機会ある毎に代弁してきたんですが、それによって何が必要かを伝えることができたのではと思います。私たちが勝手に必要だと思うことを想像して仕組みを作ったわけではなく、実際に目の前に困っている子がいて、話を聴いたり、一緒に過ごしたりする中で積み重なってできた形なので、それが全国に広がっていけばいい。彼女たちが「私の言ったことが活かしてもらえた、反映された」と思ってくれるとうれしいです。

 

Q. 活動していく上での困難はありますか?

 

着の身着のまま飛び出してくる子を保護することも多いのですが、一番困るのはお金がないことです。親はネグレクトで子どもが困っていても何もしない。追い詰められてようやくBONDにつながるわけですが、10代20代の若い女性の生活は結構お金がかかるんです。行動力もあるし、友だち付き合いもある。学校に毎日同じ服では通えない。交通費も食事代もかかる。携帯電話がなければバイトも探せない。

資金的に活動を支援してくれるところはまだまだ少ないので、関心を持ってくれる人にもっと伝え、理解してもらわなければとは思っています。ずっとそうした課題は抱えていて、そこに力を入れるのが私の役目だとわかってはいるのですが、寄付や助成のお願いに行くより、現場に出て一人でも多くの女の子に会うことを優先してしまう。

日本国内で困難を抱える若年女性というのは、海外で食糧難や貧困に苦しむ児童ほどの関心を引かないんです。彼女たちも「普通に見られたい」という思いが強く、他人にそういう姿を見せない。そのせいで心ある人たちが手を差しのべる対象から外れてしまっています。

ちょっとした優しさや考え方で人を救えることがあると思うのです。

弱っている人を追い詰めたいわけではないのでしょうが、「でも携帯持ってるよね」「こないだ美味しそうなランチ食べてる動画アップしてたよ」など、その一部分だけを取り上げる。さらに、本当に困っているのなら携帯やランチはぜいたくだと切り捨てる人もいます。彼女たちの中には過去のトラウマと闘い、精神的な疾患を患いながら生活をし、回復途中であるためにあまり働けない子も多いのです。表面的で端的な情報のみだけで判断するのではなく、そこでちょっとしたやさしさを持って、想像することができたら…と願います。

 

Q. 活動を支えてくれる信頼できる仲間は?

 

昨日は産婦人科の先生に会いました。弁護士さんは本人と虐待している親との間に入れるので、居場所さえあれば行政の制度を使わなくてもすぐに本人を保護することができます。カウンセラーも大切ですし、子どもや弱者を守れる立場にある専門家は皆さん大事です。それから全国から相談が来ますが、私たちの団体だけでできることは限られているので、若年女性の支援を行っている各地の団体の先輩たちとの連携もとても大事だと思っています。行政の窓口ですぐに支援につながればいいんですが、もうあんなところには行きたくないと街に戻る子たちもいます。ですが女性支援の先輩や仲間たちは、「わかった、何とか対応するよ」と融通を利かせて、大変な子たちでもあきらめず受け入れてくれます。全国にそういう仲間がいれば、全国から相談を受けることができるので、○○市○○課の保健師ではなく、○○課の○○さんという個人でつながれる人を増やしていきたいと考えています。

 

Q. 活動を通して社会や橘さん自身が変わったと感じることはありますか?

 

こんなに困っている子が日本中にいるとは思っていませんでした。10年前は自分が実際に渋谷や新宿で会った女の子たちと話をしていましたが、今はネットで検索した小学生くらいの子から「助けてください」と相談があります。

社会が変わったという意味では、SNSなどが彼女たちの生活の一部になり、ツールがあることで声は上げやすくなったのではないかと思います。そして、そうした子たちがいることを情報として社会が知る機会も増えている。児童虐待の件数が増加しているのは、一つには虐待を受けている子たちが自分の状況を知ることができ、自分も声を上げていいんだと思って実際に声を上げたからでしょう。しかし、やはり氷山の一角でしかなく、相談に行けないような子どもたちがもっとたくさんいるのだと社会の意識を変えていきたいです。

私自身も地下に潜って埋もれてしまっているような声をどうすれば見つけられるか、すくい上げられるか、いろいろなことをやってみなければならないと考えています。私はアナログな人間で、会って話を聴かないと相手の物語が始まらないんです。絶対に頭でっかちにならないよう、評論家にはならないように気をつけて、実際に会った子からいろいろなことを教わって形にしていけたらいいなと思っています。

 

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