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【2018入賞者インタビュー(6)】竹内弓乃さん~幼少期のすごく大事な時間でできたはずの、一人ひとりにあった発達支援を見逃さないために~

2018年度「チャンピオン・オブ・チェンジ」日本大賞 入賞者インタビュー⑥

 

竹内弓乃 (たけうちゆの)さん

特定非営利活動法人ADDS共同代表

大学在学中に自閉症がある子どもとその母親に出会い、早期集中療育の重要性を学んだ竹内さんは、同じく学生だった熊さんと学生セラピストを育成する団体を立ち上げます。大学院修了後、より専門的な療育プログラムを開発、提供しようとADDSを設立。エビデンス(科学的根拠)に基づく効果的な早期療育プログラムが、日本のどこにいても利用できるように、プログラムの開発普及、専門家の育成、保護者向けの研修や支援に取り組んでいます。

 

保護者向け研修会:子どもへの療育支援を保護者が子育ての中で行えるよう、保護者への手法伝授を体系的に行っている(写真は竹内さん)

 

Q. 活動を通してどのような社会課題に取り組んでいらっしゃるのでしょう?

 

「発達障害」という言葉は、ここ数年で耳にすることが多くなり、少しずつ理解が広まりつつありますが、まだまだ十分とは言えません。

発達障害の一つ、自閉症があるお子さんは、アメリカの研究によると68人に1人の発症率とされています。通常学級に発達支援ニーズのある児童が6.5%いるという日本の文科省の調査もあり、診断に至らなくても発達的な支援ニーズがあるお子さんは非常に多いことが分かります。

その子にあった適切な支援を2歳から5歳くらいの未就学の早い段階で受けることで、本来持っている認知・コミュニケーション機能が大きく促進されるというのが、米国の研究を中心に明らかになっています。

日本はその領域はすごく遅れていて、子どもに発達障害があるとわかったとしても、有効な支援にはどういうものがあって、どこに行けばいいのかという情報がなかなか待っていては得られない現状があります。子どもの発達が気になって自治体の相談窓口や病院を受診しても、自閉症や発達障害の傾向がある、とぼんやりした指摘を受けることが多いんです。

診断基準はありますが、発達障害はその症状の程度や現れ方が一人ひとり微妙に違っていて捉えるのが難しい障害です。その上どんな子も全体に発達が未熟な幼少期は、発達の個人差も大きい時期です。ですからさらに見立ては難しく、専門的の医師も少ないため、診断という意味では曖昧にならざるを得ません。

でも、診断がなくても、気になることがあれば「様子見」を続けるのではなく、その子に合わせて発達を促す支援を受け始めることが望ましい。ところが今の日本には発達を早期に促進する本当に有効な支援プログラムが浸透していません。有効な支援の情報が不足し、支援を提供できる機関も人材も足りないので、保護者は、迷い、悩み、近所の施設や勧められた親子教室に通ってみて様子を見る。そうこうしているうちに幼少期のすごく大事な時間は過ぎてしまい、幼稚園や小学校に上がって行く。そうして集団場面で色々と困ったことが出てきてやっと診断がおりるなんていうケースもある。このように、発達の基盤を作る重要な幼少期に子どもの発達の可能性が見過ごされてしまうという現状があります。

 

Q. そうした課題を解決するためにどんな取り組みを?

 

主な事業は3つあります。

1つ目は、発達が気になる子どもの保護者の方が、家庭で子育ての文脈の中で有効な療育を実践できるようになるための親子向け療育プログラムの提供。私たちの活動の発端は、支援機関が少ない中で、ご自身の手でお子さんへの療育支援をしていた保護者の方たちとの出会いです。そこで保護者の力というのを肌で感じて、支援者として育てていただいた経緯があります。その体験がこのモデルの着想につながっています。保護者も主体となって早期に自閉症がある子どもに療育支援をする文化が日本にもっと広がれば、早い段階でたくさんの子どもに支援が届くのではと、家庭でできる親子向けの療育プログラムを提供しながら技術開発をしてきました。これが私たちのメインの活動です。

ただ、保護者だけでというのはとても労力がいり、大変なことです。子どもが親以外の人の働きかけに反応することも重要です。そこで2つ目は人材育成事業です。保護者だけでなくその子を取り巻く全ての人が良き支援者になっていくことを目標に、学生や既存の支援機関の先生、教育機関の方向けに研修プログラムを開発して提供してきました。

そして、療育支援も人材研修も、成果はなるべく客観的に評価してデータを蓄積し、学会やシンポジウムなどでオープンにすることを続けてきました。これが3つ目の研究開発・情報発信事業です。自分たちの支援の質に常に冷静な目を向け続ける意味もありますし、きちんと成果測定をして、良い支援ならその再現性を高めるという作業は、福祉の領域でも今後もっとインパクトをもってくると思います。

子どもへの個別支援ではスモールステップで明確な目標を立て、たくさん褒めることによって丁寧に発達を促進する (写真は共同代表の熊さん)

 

Q. 今一番力を入れているのはどんなことですか?

 

研究開発、技術開発です。私たち自身が最初に現場と出会い、その後アカデミックなバックグランドを求めて大学・大学院へと進み、今も大学と連携しているというこれまでの流れもあって、フィールドを持ちながら研究をすることがごく自然に現場で行われてきたという面もあります。福祉の現場ではこういう機関はあまり多くありません。

活動を始めた15年前に比べると児童発達支援の事業所などは増えていますが、やはりまだまだ質のバラツキがあります。科学的に高い効果が実証されるようなプログラムを、テクノロジーの力も借りて再現性を高めることで、現場に広げていきたいと思っています。質の高いフィールドを持って、そこで日々目の前の親子と向き合って良い支援をして、技術開発をし、それを研究の文脈でまとめれば社会への説得力が増しますし、世界水準の質を目指すことが重要だと考えています。

テクノロジーの積極的な活用にも力を入れています。例えば人材育成にロボットやVRを使うプロジェクトを手がけています。

また、子どもの発達状況を見た上でいかに適切にその子にあった課題を構成するかは療育でとても重要なのですが、それができる人材はなかなかいません。全部でなくてもその一部をAIに移管していけるようなシステムができないかと常々模索しながら研究を続けています。

 

Q. 活動するにあたって頼りにしている仲間はいらっしゃいますか?

 

私自身が頼りないので皆を頼りにしていますが、やはり一番は他の共同経営者の3人です。共同代表の熊とは大学2年で出会って、15年以上一緒にやっています。現事務局長もゼミの後輩です。創業以来4人で必要なことを話し合って、最終的な経営判断をしています。

起業した頃、「仲良しクラブ」と言われてちょっと悩んだりもしましたが、仲良しクラブでも15年極めると4人で1つの生き物のようですね。本質的な課題の捉え方とか、出会ってきた親子へのリスペクトとか、お子さんたちの発達が伸びたのを目のあたりにした時の感動といった、この事業の大事なところが完璧にシェアできる。研究室も同じだったので、研究を行うべき文脈や価値観、言語をメンバーでずっと共有しており、コンテクストレベルが高いのだと思います。

日進月歩の領域で常にもっと質の高い支援を追求し、理論的にも分析しなければいけない時、思考の流れさえも数秒で伝わる、専門性を共有した相手と議論を重ねられるというのはやはり強いと思います。非常に珍しい団体の運営のあり方かもしれませんが、この仲間と出会えただけでも私の人生は本当に豊かになりました。

 

Q. 活動の成果として自身を持って誇れることはありますか?

 

支援の質ですね。発達が気になる子どもをなんとかしたいと思っている保護者の方に、日本一ですというのはおこがましいですけれど。でも、支援可能性という観点から発達を細かく見極めて、保護者と共有しながら最大限引き出すことに本当に真剣に向き合い、成果にこだわってやってきました。

もちろん課題も多いです。でもそれも含めて質を追求し続けてきた経緯がありますし、これからもそうしていく覚悟と基盤があるという意味では誇れるかと思います。

 

Q. 活動によって社会が変化したと思われることはありますか?

 

私たちだけが変えたわけではないと思いますが、コツコツと自分たちのできる良い支援をして、それを広げることを創業当時からやってきました。広げるために重要なのは、プログラムの再現性を高めるということと、人材育成をきちんとパッケージングすることです。そうするうちに社会にも変化があって「発達障害」という言葉がだいぶ知られるようになり、質のばらつきはあるにせよ発達支援を行う事業所は全国に増えました。

平成28年度から国の研究助成を受け、たくさんの方に連携いただいて、私たちの開発したプログラムを地域の機関の指導員が親子に提供するという取り組みを熊本、香川、横浜、千葉など全国10カ所の療育機関で行っています。

心ある先生方に私たちがプラスアルファの研修とツールとしての課題構成のシステムを提供することで、各地で発達を促進する事例がたくさん出てきました。それは大きな変化だと思います。「全国の自閉症児が支援を受けられる社会を」と望んではいましたが、実際には全国の親子の顔は見えていなくて、何か大きな群衆のような概念でした。でも今は、全国の自閉症児は本当に一人ひとりなんだと実感できます。今後はその地域に学びの基盤ができていき、地域全体の支援の質が上がっていってほしいと思います。

 

Q. 竹内さん自身は変わりましたか?

 

事業への考え方や姿勢はあまり変わりませんが、10代20代の頃はもっと自分自身が努力してこういう成果を出したい、こういうプログラムを提供したいと、自分自身のスキルアップや成果の出し方にがむしゃらだったように思います。

「早く行きたいなら一人で行け、遠くへ行きたいならみんなで行け」というのはアフリカの諺らしいです。昔、尊敬する方から聞いた時には「へぇ、いい言葉だな」と感じただけでしたが、30代になって本当にそれを実感しています。

活動を続けてきて事業も多岐にわたるようになりました。到底一人では実現できなかったことですし、そういう規模の成果がある程度しっかり出てきたと思う時、自分一人の力は本当に小さくて、仲間と一緒に出せる成果の方が絶大だと実感しはじめました。今は組織の仲間もそうですが、組織の枠を超えた連携先のたくさんの支援者と思いを共有し、一緒にどのように成果を出していくかという段階です。それを考えないといけないし、またそうしたいと思いが少しシフトしてきました。

 

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