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【2018入賞者インタビュー】阿部真紀さん〜どんな理由であっても暴力を受けていい人は一人もいない 〜

2018年度「チャンピオン・オブ・チェンジ」日本大賞 入賞者インタビュー (1)
 

阿部真紀 (あべまき)さん

認定特定非営利活動法人エンパワメントかながわ理事長

アメリカ発祥のCAP(子どもへの暴力防止)プログラムに出会い、その理念を生かした暴力防止プログラムを開発、提供しようと15名の仲間とともに2004年に団体を設立。小学生から大学生まで、さらには幼児、おとなを対象にいじめや虐待、性暴力など身近な暴力をなくすためのワークショップ等を実施しています。デートDVの問題にも早くから取り組み、「デートDV防止全国ネットワーク」を立ち上げ、予防教育の普及と支援体制づくりを進めています。



デートDV防止スプリング・フォーラム2018にて

 

Q. どのような社会課題に取り組んでいらっしゃるのですか?

 

私たちが向き合っているのは暴力です。暴力というと、殴ったり蹴ったりという、とてもむごたらしいものだけを思い浮かべるかもしれませんが、決してそれだけではなく、子どもにとってはいじめであったり虐待であったり、されて嫌だと思うものが暴力となりえますから、とても身近にあるものだと考えます。

デートDVという暴力に取り組むため、「デートDV防止全国ネットワーク」も設立しました。デートDVという言葉はまだまだ知られていないと思いますが、恋人間の暴力を指します。そして、デートDVと、虐待やDV、性暴力などが実はつながりあって起きていることが問題です。子どもたちを取り巻く暴力が、私が向き合ってきた社会課題だと思います。

 

Q. デートDVに関してわかりやすく教えていただけますか?

 

デートDVは、10代のカップルの3組に1組に起きているとても身近な問題です。好きな人同士の間で起きる暴力ですが、初めから殴ったり蹴ったりするわけではなく、最初は「付き合うのだから約束をしよう」、例えば「メールしたらすぐ返信してね」とか、「他の異性と話したりしないでね」という行動の制限から始まります。そして暴力と優しい時を繰り返しながら段々とエスカレートしていく。最悪の場合、殺人事件に至るケースもあります。問題なのは、優しい時もあるため、本人たちが気づきにくいという点です。また、暴力がひどくなっても、ここで別れを切り出したらもっと怖いことが起きると教え込まれているので、なかなか別れることができない。それがデートDVの難しいところだと思います。

 

Q. DVは連鎖すると言われていますね。

 

デートDVが起きた背景を調べていくと、色々な問題と絡み合っているのがわかります。親のDVを見てきた、虐待を受けてきた、そして自分もDVを繰り返す。予期せぬ妊娠で高校を退学し、一人親になって貧困に陥る。結婚してDVを受ければ、それは子どもにとっては虐待でもあります。様々な問題が世代を超えて連鎖する事例をたくさん見てきました。デートDVを防止することは、逆にこうした問題の連鎖を断ち切ることにつながると思っています。

世の中、人間関係が対等ではないことが多いように思います。どうしてもどちらかが上で、いっぽうが下という構図がある。ですが人権という視点に立てば、親も子も、教師も生徒も、上司と部下だって、立場の違いでしかなく対等な関係です。

エンパワメントかながわでは「暴力を受けていい人は一人もいない」という言葉をキャッチフレーズとして使用しています。どんな理由があっても、誰からであっても暴力を受けていい人はいない。もし暴力を受けたとしても、「あなたは決して悪くない」ということを伝えていきたい。

今、日本でもセクハラやパワハラが少しずつ浮き彫りになっていますが、どうしても被害者を責める風潮があるように思います。でも、暴力に遭った人は決して悪くないという信念が私たちにはあります。そう周りの人が伝え続けることで、被害に遭った人も自尊感情を取り戻していくことができると思っています。

 

Q. そうした問題を解決するために、どんな活動を?

 

暴力をなくしていくために伝えているのは、「暴力はいけません」という「禁止」では決してなく、「一人ひとりが大切な人であり、どんな人も対等で尊重されるべき人である」ということ。つまり「人権」を伝えることで暴力をなくしていく活動をしています。

人権を伝える方法として、学校に出向き参加型のワークショップを実施します。スタッフと子どもたちがいろんな形で触れ合う中で、一人ひとりが大切で尊重される体験を伝えています。

小学校から大学まですべての学校が対象で、保育園や幼稚園にも行きます。CAPプログラムでは、就学前プログラムでも権利を伝えます。幼児であっても、いじめ、誘拐、性暴力は起きていますので、暴力を跳ね返す力として、安心、自信、自由と言う権利を伝えています。

 

小学校でのCAPワークショップの様子

 

Q. 活動を続ける中でチャレンジはありますか?

 

10年くらい前から夢として描いていた「デートDV防止全国ネットワーク」がやっとスタートを切ったので、これを軌道に乗せることが私自身の今の目標です。

ちょうど15年前、デートDVという言葉が生まれました。その後日本全国で200近くの組織がデートDV防止のために活動してきたのですが、これまでネットワークがありませんでした。

「デートDVをなくそう」という目標は一致しているのですが、みんなバラバラの手法でやってきました。その人たちが本当に繋がるということ、それをどういう形で実現するかをこれから模索していくことになります。連携、協力し、違いを超えて繋がるからこそインパクトを生み出すことができると呼びかけ続けたいと思っています。

 

Q. これまでの活動の成果として誇れることは何ですか?

 

3,000回以上のワークショップで、私が顔の見える距離で出会ってきた子どもは10万人以上になります。たくさんの子どもたちの力に出会ってきたことが、私の力になりました。

子どもの力というのは、変わることができるということ。小学生向けのワークショップは60分ですが、たったそれだけの時間の中で、初めは「何だかよくわからない」という顔をしていた子どもたちの目が、みるみるうちにキラキラと輝く。そして終わると「僕、いじめてたけど、やめたいんだ」と言ってくるんです。私たちはいじめちゃダメとは一言も言わないのですが、子どもは自分の加害に気づき、さらに「やめたい」と。ワークショップの中で一人ひとりが大切にされる経験を通して、あるいは「権利」について知ることで、「自分は大切なんだ」ということに気がつく。自分が大切な存在だと思えたら、「周りの子も大切にしたい」と思う。そんな子どもたちに出会えたことが、私自身の力になっているし、それをおとなの皆さんに伝えていくことが自分の仕事だと思っています。

 

Q. 活動が社会に変化を与えたと感じることはありますか?

 

子どもがたった1時間で変わるのを毎回見てきました。それはまさにチェンジですよね。私は、チェンジはもっと起きうると思えるのです。

子どもが変わることができるのだから、私たちおとなも、社会も変わることができる。10代でお互い対等に尊重し合うことを学ぶことができれば、DVや虐待の連鎖を断ち切ることができると信じています。

デートDVに関しては、神奈川県はすでに変わりました。県と協働で2009年度から5年間行った事業によって、神奈川の高校でデートDVという言葉を知らない先生はいなくなったと思っています。また、事業実施前は14%だった高校生の認知度は、4年後の2011年には62%、つまり4倍に上がったという調査結果もあります。

デートDVの啓発も、まずは地元である神奈川県から進めてきました。HPを3つ開設していますが、「それってデートDVなんじゃない?」という最初のサイトは、10年間でアクセスが37万件となり、今年の3月にリニューアルオープンしました。実際に起こりそうなデートDVの例を子どもたちが手に取りやすいイラストを使って伝える啓発冊子は中学、高校、大学生向けをそれぞれ作りました。サイトや冊子については全国からたくさんのお問合せがあり、私たちの取り組みを参考に、漫画やイラストを使っている団体がたくさんあります。

2011年には「デートDV110番」というデートDVに特化した電話相談を全国で初めて開設しました。電話相談から見えてくる実態を世の中になんとか知ってもらえないかと、「デートDV白書」も作成しました。プライバシー保護のため仮想の事例を作ったり、相談員の座談会を載せたりとかなり苦労しています。相談の分析だけでなく、全国規模の実態調査なども行い、現在第6巻まで発行しています。

 

Q. 活動を通じて阿部さん自身はどのように変わりましたか?

 

一人でできることは限られているので、人に助けてもらっていいんだと、いつも思っています。

20年前この活動を始める前は専業主婦で、海外に住んだこともありました。一見華やかそうですが、夫の駐在についていく妻は仕事をすることができず、誰かの妻や母でしかない。でも活動を始めて、「私は私のままでいいんだ」と、自分という個人の感覚が生まれたように思います。

好きな言葉に、”Personal is Political” というのがあります。フェミニズムの言葉で、個人的な問題は社会の問題であるということ。子育てなどでうまくいかないことがあると、自分のなかに問題があるのか、パートナーや家族にあるのかと私も思い悩みました。でも、それは個人の問題ではなく、社会から派生してきている問題かもしれない。ならば社会を変えればいいんだと思えたことは、私にとって大きかったです。この言葉に出会って、すごく楽になりました。

私も数えきれないくらいたくさんの人の力を借りて活動しています。

暴力を受けて相談に来る方は自分を責める方がとても多い。そうやって自分を責めて苦しむ人がいなくなるように、「人の力を借りていいんだよ」とこれからも伝えていきたいと思います。
 

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